下野指揮ブルックナー5番 初日レポート(寄稿:澤谷夏樹さん/音楽評論家)

昨日18日、下野竜也の正指揮者として最後のプログラムの1日目がサントリーホールで行われました。この演奏会にご来場いただいた、気鋭の音楽評論家の澤谷夏樹さんに、下野のブルックナー演奏について独自の視点で読み解いたレポートをご寄稿いただきました(写真は18日公演/撮影:堀田力丸)。
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下野竜也が暴く作曲家の本性 —  率直なブルックナー、はぐらかすブルックナー  (澤谷夏樹/音楽評論)
  
  ある男性「この間、フルマラソンを完走したよ。」_C010194(7).jpgのサムネール画像
  男性の甥「伯父さん、相変わらず若々しいですね。今年でおいくつになりました?」
  ある男性「いくつに見える?」
 
 男性の逆質問に対して、甥っ子の反応は2通り。ひとつは、毎度まいどの「はぐらかし」にイラつく。もうひとつは「率直な物言い」と「はぐらかし」とのバランスのよい会話術に感心する。ブルックナーの交響曲を聴いた聴衆の反応も、上のふたつに分類できそうだ。反応を分ける鍵は指揮者が握っている。
  2月18日、下野竜也率いる読響の演奏でブルックナーの《第5交響曲》を聴いた。この日は正指揮者・下野の「卒業演奏会」。6年間のパートナーシップを確かめようと、サントリーホールには大勢のファンが集まった。プログラムはブルックナーのみ。休憩なしの80分一本勝負だ。
 
 さて、ブルックナーという人は(少なくとも音楽上は)たいへんしつこい性格だ。それは当夜の《第5交響曲》からもうかがい知れる。同じテーマを何 度も回帰させる。ピチカートを隠し味以上に使ってみせる。トレモロへの入れ込みようも尋常でない。
   こうしたクセの数々もさることながら、そのしつこさは「はぐらかし」の手法にもっともよく表れている。調のある音楽は「緊張と緩和」の交代によって曲が形作られる。それを司るのが機能和声。属和音で緊張感をしっかりと保ち、主和音でその緊張をふわりと解く。これが言わば「率直な物言い」にあたる。ブルックナーは交響曲で「率直な物言い」をする一方、緊張感を高めてはそれを半分だけ緩和して次の緊張局面に入ることを繰り返す。先延ばしになるカタルシス。これが「はぐらかし」の実態だ。
 
 ブルックナーの「はぐらかし」にイラつくか、はたまた感心するかは、指揮者の手腕に掛かっている。並の指揮者は聴衆をただただイラつかせる。というのも「率直な物言い」をしないからだ。その点、下野の音楽作りには隙がない。緊張と緩和を彫り深く造形する姿勢が透徹している。「率直な物言い」が基本だから、いざ「はぐらかし」の場面ではその効果も大きくなる。「会話術」のバランスがよいのだ。
_C01034622.jpg 緊張と緩和を手抜きなしに彫琢すると、強弱に頼らずに音楽のクライマックスを作ることができる。下野の演奏では、無闇な大音量で音が割れたり、響きがべた塗りになったりしないので、各パートの動きをつぶさに追うことができる。その上、緊張感は最高度に高められ、その反動としてカタルシスも大きな効果を上げる。
 もしブルックナーを「いつも同じ話ばかりする厄介な伯父さん」のように感じているならば、下野&読響がそんな作曲家像を打ち破ってくれるだろう。一方、ブルックナーの「しつこさ」が気にならない向きにとって同コンビの演奏は、作曲家の「率直な物言い」の清々しさに気付く助けになってくれるはずだ。
 
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明日20日19時から、同プログラムの東京芸術劇場公演を開催します。残席には余裕がございます。
明日20日の12時まで、読響チケットセンター03-3562-1550にてご予約を承っております。また、当日券(S席~B席合計約150枚)は18時から販売いたします。皆様のご来場、お待ちしております。
[2013年2月19日 12:34]

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