2008年3月のバルトーク国際ピアノコンクール優勝以降、演奏活動を行っている金子三勇士さん。7月23日の東京オペラシティでのリサイタルの終演後に、お話を伺った。
金子さんは、お父様が日本人、お母様がハンガリー人というご家庭に生まれていらっしゃいますね?
はい、そうです。実は、今は両国のパスポートを持っています。
本当は、そろそろどちらかに決めないといけないのですが、正直なかなか選べません。自分のみならず、ハーフの人は、きっと同じ悩みに直面しているのでしょうね。
日本で生まれ生活して、またもう一つの母国ハンガリーでも生活する機会ができて、ますます選べなくなって(笑)。
日本の「武士道」などの精神的な面や茶室の様な静寂な空間に身を置いて自分を見つめるのが好きで、そういう時には日本人を感じますし、ピアノを前にして、たとえばリストに対峙している時などは、どこからかわいてくる熱い物を感じるときは、ハンガリー人の血が騒いでいるのかなと。
車や電化製品のように精密的で細かなところまで気が届く日本人のメンタリティ。ハンガリー人は、大きな物のとらえ方をして、時には感情的になったり、三次元的な世界感がものすごくある民族。その両者の良い面を生かしていけたらと思っています。
ハーフの自分に何ができるのだろうと考えたとき、ヨーロッパの文化のひとつであるクラシック音楽をヨーロッパでしっかり勉強して、それを日本に伝えることができたらと思うようになりました。
今回、共演する小林マエストロとの出会いは?
日本で生まれて、物心ついた時から、小林マエストロのお話は聞いていました。実際、ハンガリーに留学してからは、先生がハンガリー国立フィルハ―モーなどを指揮するためブダペストにいらっしゃった際に、マスタークラスで指導していただいたり、日本人会などでお会いすることができて、指揮者・音楽家としてだけではなく、人間としてマエストロを見て勉強することも多く、尊敬する先生であると思っています。
日本に帰国してから共演する機会をいただき、同じ舞台に立てるなんで信じられないことだと思っています。日本人の観光客がブダペストの町を歩いていると、「コバヤシを知っているか?」「私はコンクールを見に行ったんだ!」という話は、今でも良くある話で、人気があって「英雄」のような存在です。
リスト音楽院で学ばれましたが、作曲家リストについてどのようにお感じでしょうか?
一言で言うなら「尊敬」ですね。リスト像と言うと、「若い頃から演奏活動をしていて、格好よくて女性に大人気で」という側面が強調されていますが、実際はそれだけではなくて、長い彼の人生の中で、音楽家として、ピアニストとして、文化人として、(彼もハーフであるので)国際的にいろいろなことにチャレンジしています。それらに対して頭が上がらない部分が多く、音楽家として自分もそういう人生を送るべきだし、もちろん彼のような演奏活動ができたらと思っています。
今回演奏するピアノ協奏曲第1番は、リストの若い頃の曲で、とても純粋な部分が多い作品ですね。格好良い部分、情熱的な部分、美しい部分と、非常にカラフルな作品で、リストの多彩な色を感じて楽しんでいただけたらと思います。
生誕200年というリストの記念の年に、彼の代表作を演奏できることはたいへん光栄ですし、一曲目の「前奏曲」はもちろん、それにマーラーの交響曲第1番は、1889年にマーラーがハンガリー国立歌劇場の音楽監督時代、ブダペストで初演されたのですよね。
まさに、ハンガリー一色の演奏会になること、今から楽しみにしております。
サマーフェスティバル 真夏のコバケン・スペシャル
2011年8月24日〈水〉 サントリーホール
指揮:小林研一郎
ピアノ:金子三勇士
《リスト生誕200年記念》
リスト/交響詩〈前奏曲〉
リスト/ピアノ協奏曲 第1番
《マーラー・イヤー・プログラム》
マーラー/交響曲 第1番〈巨人〉