11月24日、25日にショーソンの「愛と海の詩」で共演するメゾ・ソプラノの林美智子さんに、作品への想いをお話しいただきました。
__11月の上旬にパリを訪れていたと伺いましたが。
どのような作品も、できるだけその地でしっかりと勉強したいと思っておりまして、今回このショーソンの作品を歌うために、アニタ・ティテカさんというパリに住むコレペティートルの方のところへ、勉強しに行って参りました。
ティテカさんとは、2009年に「カルメン」を歌った時に知り合ったのですが、今回は夏ごろから、「ショーソンを演奏するので、一度見て頂きたいのだけど、行けるかどうか、まだ分からなくて…」といったメールでのやりとりをしていました。
そうして9月に入 って、ティテカさんから連絡を頂いたのですが、驚くことが起きていたのです。
彼女はその時『ペレアスとメリザンド』のコレペティートルとしてスペインのマドリッドに行っていたのですが、リハーサルの合間に、このショーソンを勉強のためにピアノで弾いていたところ、『ペレアスとメリザンド』の指揮者であるカンブルランさんが傍に来られて、「なんでショーソンを弾いているんだ?」と話しかけてきたというのです。彼は「僕は、今度この作品を日本で演奏するんだよ」と言うので、ティテカさんは「え!日本から私の友達が、この作品を勉強しに来るかもしれないのだけど!」と。そして、2人が互いに持つ情報を照らし合わせた結果、「同じだ。ミチコだ!」となったそうなのです。私もまだパリに行けるか分からなかったので、ティテカさんには詳しく誰と演奏するかを、伝えていなかったのです(笑)。
__それは、運命的な偶然ですね。
そうなんです。このことをティテカさんから聞き、「これは、5日間しかないけど、パリに行かなきゃ」と決心しました。しかも、ティテカさんは「新しい楽譜を買って、カンブルランさんのオーケストラ・スコアから、指示を書き入れておいたから」と。
__そして4日間、パリでレッスンを受けたのですね?
11月6日から9日まで、パリでレッスンを受けました。ティテカさんの家の近くの小さなホテルで、勉強に明け暮れた4日間でした。日本では子育ても忙しかったので、久しぶりにゆっくり楽譜と向き合う時間が取れました。レッスンは毎日3時間ぐらい、ティテカさんの家に通い、ショーソンの作品も一から勉強しました。ショーソンの作品を歌うのは初めてなので、最初は詩の朗読から始まり、しっかりとレッスンをして頂きました。
また、個人的な趣味なのですが、作曲家のお墓を訪れるのが好きで、今回はペール・ラシェーズ墓地に行き、ショーソンのお墓に手を合わせて参りました。
__この作品の印象や聴きどころをお教えいただけますか?
学生の頃から目覚ましの音楽として使うなど、私自身大好きな作品でした。とても穏やかで、大きな海が波打つようなイメージで、水分を含んだ風を感じる心地よい音楽です。オーケストレーションも素晴らしく、題名の如く「海」のイメージを存分に感じていただけます。初めて聴く方にも、きっと素晴らしさが伝わると思います。
特に、詩の繊細で感傷的な部分が、とても細かく描かれています。詩の起伏とともに、調性や拍が見事に描かれていて、ショーソンが詩をとても大切に扱ったのが分かります。詩の次の節に行く間奏のところも、前の詩の余韻が音楽で描かれており、絵に描けそうな作品です。流れるようなオーケストラの響きの中に言葉とメロディがあるので、それらが一体となってお客様に聴いていただけたら、嬉しいですね。
また改めて感じるのは、ショーソンの音楽には、繊細なドビュッシーのようなところもあり、波がうねる部分はワーグナーの影響があるということです。それでも、シンコペーションやタイの使い方などに、ショーソンの独特のものを感じます。
__最後に、公演への意気込みをお聞かせください。
今回カンブルランさんとは初めての共演となりますが、オープンで素晴らしいお人柄でいらっしゃるとティテカさんからお伺いしたので、本当に楽しみにしています。また、大好きだったショーソンの作品を読響さんと一緒に演奏できる機会をいただき、光栄に思っています。あまり多く演奏される曲ではありませんが、作品の魅力をお客様にお伝え出来たら幸せです。皆様と会場でお会いできることを、楽しみにしています。
※なお、来日したカンブルランさんに、ティテカさんのことを尋ねたところ、2人は学生時代からの友人で、パリ・オペラ座などでも一緒に仕事をしていたとのこと。「僕もビックリしたよ!ミチコとの共演が楽しみだよ」と思わぬ偶然にお喜びでした。