昨日19日、常任指揮者シルヴァン・カンブルランのタクトによるベートーヴェンの「第九」の初日公演がサントリーホールで行われました。この演奏会にご来場いただいた、読響「月刊オーケストラ」でもお馴染みの音楽ジャーナリストの片桐卓也さんにレポートをご寄稿いただきました。
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カンブルラン指揮の「第九」初日を聴いて (片桐卓也/音楽ジャーナリスト)
「第九」は面白い。そんなことを軽々しく言うと、天国からB氏の鉄拳が飛んで来そうだが、今回のカンブルラン指揮による読響の演奏を聴いたら、この発言も許して頂けるだろう。19日に初日を迎えた2012年の読響「第九」。当然のことながら、カンブルランがどんな指揮をするか、に注目して聴いていた。そして、意外な発見だらけの演奏に驚いた。
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特にそれが生きていたのは第3楽章。通常は単なるゆったりした音楽に聴こえてしまうこの楽章にも、あえて言えば舞曲のようなリズムのうねりを作り出す。そして変奏ごとに各楽器のバランスを微妙に調整して、それぞれのパートを浮かび上がらせる。拍節感がよりくっきりと表現されていく。こんな第3楽章はこれまでに聴いたことが無かった。
もうひとつの特徴は透明感。木管楽器の各パートが非常によく聴こえてくる。そのことによって、通常は隠されてしまうような音の動きが分かる。第4楽章でも、ソロ歌手と一緒にこんな音が鳴っているのだと驚く瞬間がいくつかあった。それは単に木管楽器を浮き彫りにしたということではなく、各楽器間のバランスの取り方(第4楽章では声楽とオーケストラのバランスも)が絶妙で、アンサンブル全体の見通しが非常に良いからに違いない。コントラバスの動きを強調する瞬間などもあるので、ぜひ実演で確認して頂きたい。
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これらの要素によって、カンブルランが日本で初めて指揮する「第九」の姿が浮き彫りになる。いわゆるピリオド奏法的なアプローチとも違い、モダン楽器のオーケストラで追究できるリズム感、フレージング、アンサンブルの醍醐味を感じさせてくれる。そのことによって、「第九」の中に私たちがまだ聴いたことの無かった音楽が眠っていることを教えてくれた。まさに新鮮な出会い。
だから「第九」は面白いのだ。歴史を振り返れば、マーラーなどが「第九」に改変を加えてきた訳だが、現在は世界的なオリジナル志向により、ベートーヴェンのスコアに従って作品の真の姿に接することが出来る。そこでもう一度、この破天荒な作品の真価を私たちは聴き取りたい。耳の障害を抱えながら、苦闘しつつこの交響曲を書き上げた時、作曲家の心の中にはどんな風景が見えていたのだろうか? カンブルランと共にその風景の前に立ってみて欲しい。
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23日、24日のチケットは完売。22日も残券僅か(15枚)となっております。21日のサントリー公演、26日のオペラシティ公演は、残席約100枚とまだ余裕がございます。皆様のご来場、お待ちしております。