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12月18日から25日まで、年末恒例のベートーヴェン「第九」(6公演)をサントリーホールなどで開催します。今年は、読響と初共演となるデニス・ラッセル・デイヴィスが指揮を務めます。
 
音楽ジャーナリストの生田俊揮さんに、10月に行われたリンツでのデニス・ラッセル・デイヴィスの演奏会のレポートをご寄稿いただきました。
 
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今月、読売日本交響楽団でベートーヴェンの「第九」を指揮するデニス・ラッセル・デイヴィスは、現在バーゼル交響楽団首席指揮者とリンツ・ブルックナー管弦楽団、リンツ州立歌劇場の音楽監督を務める、まさに脂が乗り切った指揮者だ。とりわけ、デイヴィスとリンツの関係はすでに11年目を迎えており、まさに蜜月を謳歌しているところ。CIMG013466.jpg
 
リンツは約19万人が住む、オーストリア第3の都市。中心街もこぢんまりとしていて、のどかな雰囲気が漂う。リンツ中央駅に降り立つと、この街にゆかりのある作曲家アントン・ブルックナーの名を冠した施設やカフェ、料理が至るところにあり、メインストリートの街灯ほぼ全てに、リンツ州立劇場で開催間近のワーグナー:『ニーベルンゲンの指環』を宣伝する旗が垂れ下がっていた。まさに、都市全体に根っからクラシック音楽が染み付いていることを実感できる街である。
 
2013年10月23日、そのリンツにあるブルックナー・ハウスで、デイヴィスとリンツ・ブルックナー管弦楽団は、モーツァルト:交響曲第32番、モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」、オラトリオ「救われしベトゥーリア」、メインにマーラー:交響曲第4番(ソプラノ:チェン・ライス)を配したプログラムを演奏した。
 
ホールの席に着いて演奏が始まるのを待っていると、オーケストラのチューニングの音から、すでに木管の響きが立体的に独特な味わいを持ってホールへ広がり、指揮者立たずして"デニス・ラッセル・デイヴィス・サウンド"が作り上げられていたことにまず驚く。
 
そして、前半に演奏されたモーツァルトは、まったりとした甘い音色の誘惑に溺れることなく、極めて硬派な演奏が繰り広げられた。音楽が持つ質量・プロモーションは決して揺るがず、強固に音楽を築き上げるアプローチは、デニス・ラッセル・デイヴィスの魅力のひとつだ。この厳しいまでの構築感はさながらクレンペラーのよう。思わずリンツにいながらにして、彼のアプローチでベートーヴェンを今すぐに聴いてみたい、と年末の「第九」演奏への期待に胸が膨らんだ。
 
後半のマーラー:交響曲第4番も同様に強固な構築感をもって聴かせた。なかでも第3楽章のクライマックス部分においては、音楽の質量を保ちつつ、すこぶるテンポを落して演奏したものだから、音楽に浮遊感が伴って、まさにマーラーが表現した死に絶える魂が最後に少年の心へと戻りつつ消えるさまを追体験できた。現在ヨーロッパで躍進する、デニス・ラッセル・デイヴィスの真髄に近づくことができた瞬間であった。
 
その日の演奏会は暖かな拍手に包まれて終演した。リンツの聴衆がデイヴィスとブルックナー管を心から愛していることがわかる、幸せな時間を共有できた。
 
デイヴィスとリンツ・ブルックナー管は息つく暇なく、翌日の朝からリンツ州立劇場でワーグナーの『ニーベルンゲンの指環』より「ラインの黄金」のドレスリハーサルを行った。指揮者・オーケストラ共に昨日の演奏会の疲れを一瞬たりとも垣間見せず、充実したワーグナーとなった。デイヴィスの演奏は声楽を伴った大管弦楽作品であっても、飽和することなく純粋に音楽がわれわれの身体に染み入ってくるのだ。
 
リハーサル後、幸いにもデニス・ラッセル・デイヴィスに読響で第九を演奏する意気込みを聞くことができた。
 「ベートーヴェンの『第九』は何度も指揮したことがありますが、読響と演奏するのは初めて。読響という、素晴らしいオーケストラと演奏することを楽しみにしています。」
 
百戦錬磨、脂が乗り切ったデイヴィスと読響の「第九」、大いに期待しよう。
生田俊揮(音楽ジャーナリスト)
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12月18日から25日の6公演のチケット情報はこちら
既に21日、23日は完売。18日、19日も残券僅少となっています。