
郷古氏に、今回演奏するベルクのヴァイオリン協奏曲の魅力などについて、語っていただきました。
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■作品との出会いと魅力
最初はこの作品を良さが分からなかったのですが、繰り返し聴くうちに好きになり、5年~6年ぐらい前から演奏したいと思っていました。スコアを読むと、ベルクの作品への深い想いや作品に込めた哲学的なものに圧倒されました。そして、ウィーンに留学し、この作品への理解も深まりました。ウィーンの街には、オットー・ワーグナーやクリムトらの19世紀末から20世紀初頭の建築や美術などが残っています。そこで用いられている金色(ゴールド)は、決して明るいだけでなく、複雑な光を帯びており、くすんだ金色なんです。なま温かさがある。ベルクの楽譜は、感情の入る隙間がないように完璧に書かれているのですが、出てくる響きにはウィーンの金色を想わすような、なま温かさがあり、ロマンがあるのです。
■演奏する上で心がけること
協奏曲ですが、ソロのヴァイオリンも、オーケストラの1つのパートとなって演奏することが必要とされます。スコアには鏡のような対称性が、数学的にも徹底して表されています。演奏上でも、対称性というものを意識し、表せたらと思います。
また、楽譜には、ベルクによって非常に細かく指示が書かれていますので、それに忠実に、そして作曲家の内面を想像して演奏します。抽象的ではなく、ある意味で直接的に書かれた作品だと思います。前半は、天使のようなマノンが描かれ、ウィンナ・ワルツの部分などチャーミングな部分もあり、後半は次第に病に苦しみ、死に直面し、そして魂が浄化していきます。本番では、自分が作品自体に成りきるように、高い集中力を持って演奏したいと思います。
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7月1日、郷古氏のベルクへの強い思いを込めた演奏に、どうぞご期待ください。