第157回東京芸術劇場 名曲シリーズ

2009年1月16日(金) 19:00開演

会場:東京芸術劇場

指揮:ワルター・グガバウアー
バリトン:フローリアン・プライ

◆モーツァルト/交響曲第40番
◆シューベルト(鈴木行一編曲)/冬の旅(全曲)

ワルター・グガバウアー (Walter E.Gugerbauer)

 世界的に有名な少年合唱団の名を挙げるとしたら、どこを思い浮かべるだろう? 誰でも口にする名はウィーン少年合唱団ではないだろうか。
 昨秋、テレビの幼児番組「ピタゴラスイッチ」(NHK教育テレビ)の「アルゴリズムたいそう」で「ウィーン少年合唱団のみなさんといっしょに」の回がおかあさん方を中心に反響を呼んだことがあった。
 合唱ファンには今も昔もジャニーズ系と似た人気を誇るウィーン少年合唱団だが、実は、今月の指揮者グガバウアーは、かつてこの合唱団の看板指揮者を務めていた。現在5、60歳代のウィーン少年合唱団ファンの方ならば、国内公演の各地を追っかけで彼の指揮を見続けた方もいらっしゃるかもしれない。それほどグガバウアーはウィーン少年合唱団の公演にはなくてはならない存在として、ヨーロッパ・アジアツアーだけでも250回を数える売れっ子だった。
 その彼が、本格的なオペラ指揮者としての活動を始めるべく新たな指揮活動に挑戦したのは1987年ハノーファー州立歌劇場の指揮者に就任してからである。その後、90-96年ライン・ドイツ・オペラ(デュッセルドルフーデュイスブルク)で活躍。95-98年まではキール市立劇場音楽総監督と、ウィーン少年合唱団で培った名声をもとに、より広い総合芸術としてのオペラの作り手として、着実な歩みを重ねながらレパートリーを開拓していった。
 2000年からはエアフルト歌劇場の音楽総監督に就任し、特に〈フィガロの結婚〉を数多く取り上げている。97年から指揮している〈コシ・ファン・トゥッテ〉と共に、モーツァルト指揮者としての進境を示している。
 客演指揮も多く、ライプチヒ、ベルリン、オスロ、ウィーンなどの歌劇場に登場し、コンサート指揮者としてもリンツ・ブルックナー管、ライプチヒ・ゲヴァントハウス管などに招かれている。バンブリー、バルツァ、サルミネン、ルネ・コロといった大歌手との共演も多い。
 1955年、オーストリアのリンツ生まれ。ウィーン国立音大卒。(Y.K.)

フローリアン・プライ [バリトン] (Florian Prey)

 1960~70年代。"フィガロといえばプライ!" というように、オペラ作品の題名役と歌手の名が組み合わされて語られたヘルマン・プライという大歌手がいた。
現代の多くのオペラ歌手と違って、歌曲の歌い手としても若いころから優れ、フィッシャー=ディースカウかプライかというドイツの2大巨頭と称されるほどだった。
《名曲》と《芸劇名曲》に登場するフローリアン・プライは、そのへルマン・プライの息子である。今回は、かつて父ヘルマンが鈴木行一に依頼しドイツ各地で歌った管弦楽編曲版で歌曲集〈冬の旅〉を取り上げる。シューベルトの歌曲を歌ってリート歌手としての金字塔を築いた父と、〈冬の旅〉で日本デビューとなるフローリアン。往年のヘルマン・プライを知る聴衆にとって、父親伝来のどんな充実した歌唱を聴かせてくれるか興味津々だ。
ミュンヘン生まれ。当地の音楽大学で学び、ブラシュケ、カピナーティ、レーヴァス、そして父に師事した。
歌手としての活動は、ドイツ、イタリア、スイス、フランス、オーストリアなどヨーロッパが中心で、父ヘルマンが得意とした〈魔笛〉のパパゲーノ役をはじめとして、〈コシ・ファン・トゥッテ〉のグリエルモ役、〈ナクソス島のアリアドネ〉のハルレキン役、〈3つのオレンジへの恋〉のパンタローネ役などをレパートリーとしている。
リート歌手としても好評を得ており、シューベルトの〈美しい水車小屋の娘〉と〈冬の旅〉の歌唱が、ドイツ、オーストリアのテレビ、ラジオを通じ広く放映されている。
2004年のザルツブルク・モーツァルテウム大ホールと05年ミュンヘンでの公演は共に〈冬の旅〉を歌い、特にミュンヘン公演では20分以上のカーテンコールが続くという、歌曲のコンサートとしては異例とも言える盛り上がりを見せた。
またヴェニスのフェニーチェ歌劇場でのバッハの〈ヨハネ受難曲〉での歌唱は、聴衆はもとより批評家たちからも高い評価を受けた。
父の後継者として「バート・ウラッハ・秋の音楽祭」の芸術監督もつとめている。 (Y.K.)

モーツァルト 交響曲第40番ト短調K.550

作曲:1788年完成
初演:不明

 交響曲第39番、40番、41番の3曲は、モーツァルト(1756-91)の「三大シンフォニー」としてよく知られていますが、中でも第40番の人気はかなり高く、様々なジャンルに編曲されたりもしています。この曲がそれほど人気があるのは、何よりも、他の交響曲とは明らかに一線を画す個性があるからでしょう。その個性をもたらしているいちばんの要素は、この曲がト短調で書かれているということです。
ト短調という調性は、モーツァルトの時代には、「嘆き」や「悲哀」を表すのにふさわしいと考えられていました。モーツァルトの交響曲の中でも、ト短調で書かれたものは、この第40番と「小ト短調」と呼ばれる第25番の2曲しかありません。当時、交響曲は、音楽会の始まりを告げる曲(=序曲)であり、それにふさわしく華やかで祝祭的な雰囲気をもっていることが求められていました。それには、短調、ましてや悲劇的な情緒を強調するト短調という調性は、あまりふさわしくないということになります。そう考えてみると、この交響曲第40番は、モーツァルトにとってはかなり野心的な作品だったといえるのではないでしょうか。
この曲のもうひとつの大きな特徴は、第1楽章の始まりに登場するテーマの存在です。このテーマは、2度音程のモティーフによるもので、第1楽章だけでなく、他の楽章のテーマにも認めることができます。このモティーフは、当時たいへん音楽が盛んだったマンハイムの音楽家たちが好んだために、「マンハイムのため息」とも呼ばれていますが、バロック時代から「悲しみ」を表現する重要なモティーフでした。この交響曲第40番は、このモティーフがヴァイオリンによって、まさに「ため息」をつくように、そっとひそやかに演奏されることから始まります。これも、「音楽会の序曲」という交響曲の慣例からすると、かなり異例なことでした。
こうして、「悲哀」や「嘆き」を表すト短調をベースに、「ため息」のモティーフが随所にちりばめられたこの交響曲は、古典派の交響曲全体からみても、またモーツァルトの全交響曲の中でも、たいへん個性的で特徴のある作品となりました。あふれるような悲しみの表情は、たいへんロマンティック=19世紀的な感じを覚えます。それだけに、一度聴くと二度と忘れられない印象を残す、現在でも人気のある曲となっているのでしょう。

第1楽章
モルト・アレグロ ト短調 2分の2拍子
第2楽章
アンダンテ 変ホ長調 8分の6拍子
第3楽章
メヌエット、アレグレット ト短調 4分の3拍子
第4楽章
アレグロ・アッサイ ト短調 2分の2拍子

シューベルト(鈴木行一編曲) 冬の旅

作曲:オリジナル:1827年完成、編曲版:1997年完成
初演:編曲版:1997年10月7日、ミュンヘン

 シューベルト(1797-1828)は室内楽や交響曲など、様々なジャンルに作品を残しましたが、やはり多くの人は歌曲を思い浮かべるのではないでしょうか。そんなシューベルトの600を越えるともいわれる歌曲の中でも、数曲の歌曲がひとつのテーマによって繋ぎ合わされた連作歌曲集は、シューベルトならではの特徴を備えたものとして、彼の代表作となっています。そのひとつ〈冬の旅〉は、もうひとつの連作歌曲集〈美しい水車小屋の娘〉と同様、ドイツの詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩に基づいてつくられた作品です。失恋した若者がさすらいの旅を続ける姿が描かれており、全体を通して、孤独や絶望、決して手に入れられないものに対する憧れとあきらめ、といったものが色濃く打ち出されています。全24曲は2部に分かれていて、前半の12曲が1827年2月、後半の12曲が同じ年の10月に作曲されました。
 この頃、シューベルトの人生には暗い影が差してきており、体調や経済状態の悪化と共に、次第に精神も暗くなっていました。とりわけ、1827年の3月に敬愛するベートーヴェンが亡くなったことは、彼に大きな打撃を与えたといわれていますが、ミュラーの詩集に出会ったのも、ちょうどこの頃のことでした。シューベルトは、絶望の中で生きなければならない若者の姿に共感したのだと思われますが、歌曲集にする際には、元の詩集とはかなり順番を入れ替えています。
 さて、シューベルトのリートは、伴奏をするピアノの性格が存分に活かされたもので、ピアノ以外の楽器への編曲はなかなか難しいものがありますが、ブラームスやレーガーなど、何人かの作曲家によってオーケストラによる編曲版が作られています。今回演奏されるのは、東京藝術大学大学院を修了、松村禎三や黛敏郎に師事した作曲家鈴木行一によるもの。もともと、バリトンのヘルマン・プライと岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢の録音のために〈冬の旅〉の中から数曲を編曲したところ、プライがこれを気に入り、全曲を手がけるようになったといういきさつがあります。オーケストラ版にありがちな大げさな表現ではなく、原曲のピアノの響きに沿いつつ詩の世界をより深く表現するような編曲となっているので、初めてオーケストラ版を聴くという人も違和感なく聴けるのではないでしょうか。また、今回は、初演者であるヘルマン・プライの息子であるフローリアン・プライがソリストとして登場する点も、非常に楽しみといえるでしょう。

冬の旅のプログラム

(むろた なおこ・音楽学)

読響チケットセンター

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