第107回東京芸術劇場 マチネーシリーズ

2009年1月10日(土) 14:00開演

会場:東京芸術劇場

指揮:下野竜也
ヴァイオリン:小野明子

《メンデルスゾーン生誕200年記念》
◆メンデルスゾーン/トランペット序曲
◆メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
◆メンデルスゾーン/交響曲第4番「イタリア」(1833/1834稿)

下野 竜也 (Tatsuya Shimono)

 2008年10月の定期演奏会は、多くの聴衆が耳にしたことのない珍しいヒンデミットの作品が取り上げられた。そのせいかサントリーホールは緊張と期待で、不思議な熱気が漂っていた。明らかにいつもとは違う空気だ。
 下野竜也が指揮するコンサートでは、そんな緊迫感が否応なく漂う曲目構成の時がある。コリリアーノの作品を取り上げた公演もそうだった。自然と醸し出される本邦初演作品への期待が緊迫感となって、ホール内の雰囲気にじわじわと充満してくるのだ。
 ヒンデミットが第2次世界大戦直後に作曲した「前庭に最後のライラックが咲いたとき――愛する人々のためのレクイエム」は、ドイツ人でありながらナチスドイツの支配する祖国から亡命しなければならなかった作曲家の、屈折した心情の吐露を切々と訴える作品だった。
 戦争の犠牲者への哀歌ともなる65分間にわたる、独唱と合唱が相和する。
 緊張した会場の雰囲気を一閃いっせん、確信を込めた下野の棒が振り降ろされホイットマンの同名の名詩が歌われてゆく。
 格調高く朗々とした三原剛のバリトン独唱を包み込むベルベットのような質感をたたえた弦楽器、沼沢を前に孤独を語る鳥の思いを重松みかがメゾ・ソプラノで歌ったとき、木管群の鳥の語りを思わすかのような哀悼の響きが、切々と心に染みてきた。あまりの繊細さに聴衆はじっと聴き入る。そして、さらなる沈黙へと導かれ、引き込まれて行った。
 大曲であるにもかかわらず、聴衆の集中力が持続したのである。多くの者にとって未知なる領域でも、名演奏が、長く封印されて舞台にのらなかったこの隠れた名曲の真価を、おのずから発揮させたからにほかならない。
 充実は、しばしの沈黙を置いて称賛の拍手をもって伝わった。
 今年、メンデルスゾーン生誕200年記念として、下野はいくつもの名作、そして秘曲までを取り上げる。今回はその第1弾。交響曲の中で最もポピュラーな〈イタリア〉交響曲を取り上げる。ただそこでも下野は趣向を凝らす。異稿(1833/34年版)を取り上げるのだ。詳しくは下野自身のページ「幕間にひとこと…」をご覧あれ。(Y.K.)

小野 明子[ヴァイオリン] (Akiko Ono)

 戦後、フルトヴェングラーがナチス協力者としての戦犯容疑をかけられていた時、ユダヤ人として全面的に氏を擁護したのが、当時まだ青年だった名ヴァイオリニスト、メニューインだった。神童と呼ばれながら第2次世界大戦の荒波をくぐり抜けた彼は、1970年代まで、演奏活動を意欲的に続けながら後進の指導にも精力を注ぎ込み、教育者として大きく貢献した。
 今回、そのメニューインが得意としていたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を、氏の設立した音楽院の卒業生で直弟子・小野明子が取り上げる。
 小野は12歳でイギリスに渡りメニューイン音楽院で学び、7年間、メニューインに師事した。彼女のヴァイオリニストとしての人生は、この巨匠との宿命的な出会いによって決まった。
 文化庁芸術家在外研修員・ロームミュージックファンデーション奨学生としてウィーン国立音大に学び同大学院で研さんを積む。2000年メニューイン国際ヴァイオリンコンクール・シニア部門で優勝、世界の楽壇が注目した。
 さらにフォーバルスカラシップ、ストラディヴァリウスの各コンクールで第1位。エリーザベト王妃、パガニーニ、シゲティの各コンクールでも入賞を果たしている。
 カトリック教会の総本山バチカンのローマ法王に謁見えっけんしたのは、1993年。ユニセフ主催のイタリア演奏旅行でのことだった。その翌年にはイスラエルの建国記念式典演奏会に出演、96年にはメニューイン80歳記念ガラコンサートにチェロの巨匠ロストロポーヴィチ、現代ヴァイオリン界を代表するスター、ムターと共に出演している。
 世界平和と人権問題を生涯のテーマとしたメニューイン。そんな演奏者以上にひとりの人間として多岐にわたる活動を行った師の教えが演奏からも聴こえてくるだろう。
 2003年東京シティ・フィルに登場、以後、N響、東響、新日本フィルなどと共演。04年には紀尾井ホールでリサイタルデビューした。08年12月には、小品を集めたデビューCDをリリースした。現在、英国メニューイン音楽院教授。
使用楽器:Gioranni Battista Guadagnini1772年製作。 (Y.K.)

メンデルスゾーン トランペット序曲ハ長調作品101

作曲:1826年
初演:1828年4月18日、ベルリン

 有名な哲学者の祖父と富豪の銀行家の父、言わばすぐれた知性と豊かな財力の両方を備えた環境に生まれ育ったメンデルスゾーン(1809-47)は、幼少からめざましい才能を示し、それをのびのびと開花させてゆきます。10代前半からヨーロッパ各地を旅して高名な音楽家たちと接する一方、ベルリンの実家は芸術家たちが多く集まるサロンとなっていました。モーツァルトと並ぶもうひとりの“神童”は、このすばらしく恵まれた環境が育んだとも言えるかもしれません。
 トランペット序曲は、パリ旅行の翌年、17歳の時の作品で、同じ年には〈真夏の夜の夢〉の序曲も書かれています。メンデルスゾーンは、〈フィンガルの洞窟〉などの標題的な演奏会用序曲を得意としましたが、この序曲はその初期の試みと言えるでしょう。金管の晴れやかなファンファーレで始まるこの曲には、メンデルスゾーンのあふれる才能がよく表われており、ソナタ形式の展開部には、フーガの技法を盛り込んだ多彩な表現が見られます。主音のドでなく主和音第3音のミで終止するという工夫も新鮮な効果があり、彼はこの終止法をその後も何度か用いています。

メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64

作曲:1838-44年
初演:1845年3月13日、ライプチヒン

 メンデルスゾーンは、20歳の時にバッハの〈マタイ受難曲〉の復活上演を指揮するなど、指揮者としても優れた力量の持ち主でした。とくにライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者時代には、バッハやベートーヴェンなど古典作品の特集演奏会を開いて精力的に活動し、またシューベルトの交響曲〈ザ・グレート〉を初演するなど、意義深い功績を残しています。
 このヴァイオリン協奏曲は、当時このオーケストラのコンサートマスターだったダヴィドのために書かれた曲で、作曲もダヴィドの助言を得ながら進められ、ロマン派の協奏曲として屈指の人気を誇る作品に仕上げられました。楽章間は間を空けずに続けて演奏されますが、拍手を避け、一連の流れを保つためのこうした工夫には、指揮者としての配慮もうかがえるわけで、彼の他の作品にも見られる特徴となっています。

メンデルスゾーン 交響曲第4番イ長調作品90〈イタリア〉(1833/34年稿)

作曲:1831-33年
初演:1833年5月13日、ロンドン

 5曲あるメンデルスゾーンの交響曲は、出版された順で番号がついており、これを実際に作曲された順序に並べ替えてみると、1番→5番→4番→2番→3番ということになります。彼は第4番の初演後も暇をみては楽譜に手を加え、5年後には改訂版の形でロンドンで再演されましたが、結局生前に出版されることはなく、死後の1851年に遺作として出版されました。今回の演奏は現行の初演版ではなく、改訂版によるものです。
 第1楽章はそのままにして、第2楽章から第4楽章に、フレージングやダイナミクス等、改訂を行いました。第2楽章のメロディー、第3楽章トリオのファンファーレ、第4楽章の力強い曲の進行等、当時のメンデルスゾーンのこの曲への想いが感じ取れ、今回は貴重な機会と言えるでしょう。
 20歳のメンデルスゾーンのイギリス旅行は、〈フィンガルの洞窟〉や交響曲第3番〈スコットランド〉の着想をもたらしましたが、イギリスから帰った彼は、まもなく次にイタリアへと旅立ちます。ヨーロッパの人々にとってイタリアというのは、やはり南国的な解放感を味わえる国なのでしょう。イタリアに旅することで創作意欲をかき立てられた作曲家は、モーツァルトをはじめ決して少なくありません。ハンブルク生まれ、ベルリン育ちのメンデルスゾーンにとっても、光あふれるイタリアへの憧れは強く、とくに半年間のローマ滞在は、青年期の彼に多くの刺激を与えました。その時の印象も鮮明なままに書き始められたのが、第4番〈イタリア〉です。そののびやかな旋律や躍動するリズムは、ラテン的な明るさに満ちていて、闊達かったつにして叙情豊かな表現が端正な形式の中に息づいている名曲です。

第1楽章
木管の軽快な8分音符、そのうえをすべってゆくような快活な第1主題は、いかにも楽しげな曲調を印象づける。
第2楽章
厳かな行列の足取りを思わせるリズムの上で、民謡風の息の長い旋律が歌われる。
第3楽章
優雅な趣きのメヌエット。中間部ではホルンが遠い角笛のように響く。
第4楽章
サルタレッロ(15世紀ごろからイタリアで流行した3拍子の急速な舞曲)。主題を3連符単位の偶数拍子で書く巧妙な手法により、サルタレッロとタランテラが一緒になって熱く高揚してゆく。

(つかだ れいこ・音楽学)

 

読響チケットセンター

前の月へ2017年10月次の月へ

1
14:00
234
16:00
567
14:00
89
15:00
1011
14:00
1213
14:00
14
14:00
151617
16:00
18192021
22232425262728
293031    

オーディション

  • 現在、募集はありません
クリックすると、読響ブックレット2017が新しいページでPDF表示されます