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0207 - コピー.jpg2月9日(金)《第635回定期演奏会》には、3月に首席客演指揮者を退任する山田和樹が登場。同ポストとして最後の《定期演奏会》では、前半にバルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」を、後半には、尺八の藤原道山、琵琶の友吉鶴心を独奏に迎えて武満徹「ノヴェンバー・ステップス」、最後にベートーヴェンの交響曲第2番を演奏します。リハーサル中のマエストロに、今回のプログラムの聴きどころなどを伺いました。

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__前半には、バルトークの「弦チェレ」を演奏します

僕が、この曲を最初に指揮したのは、2019年にニュージーランドのオークランド・フィルとの演奏会です。その時、とても良い曲だと感じました。数字フェチの僕には、バルトークの作曲は数学的に見えるのです。黄金律を用いていて、この作品もフレージングがフィボナッチ数列で書いてあります。1、1、2、3、5、8、13、21…のように。その点から作曲家にシンパシーを感じられました。その後、この曲を日本でも2回演奏しました。読響のサウンドに、とても合っていると思います。僕の中では、ストラヴィンスキー「春の祭典」と並んで、血沸き肉躍る曲です。原始的なバーバリズムの要素が用いられ土俗的、でも洗練されていて美しい音楽。日本はハンガリーと共通のルーツがあると言われていて、奥ゆかしいメンタリティなど人々の気質も似ていると感じます。ですので、日本人にしかできないバルトークの良い演奏があるはずだと思っています。

__後半の1曲目「ノヴェンバー・ステップス」には、どんな印象をお持ちですか?

初演当時のエピソードでは、小澤征爾さんが日本人の独奏者二人、横山勝也さんと鶴田錦史さん、そして武満さんを連れてニューヨークに乗り込んだ際に、「何があっても驚いちゃいけないよ」と言ったとされています。当時アメリカにおいて、日本人や日本文化は嘲笑の対象だったようです。小澤さんは、様々な差別や偏見と闘っていたと聞きます。二人の独奏者は、武満さんの別荘に何度も通い、鶴田錦史さんは武満さんの別荘の隣に別荘を買って住み込みまでして、3人で何か月もかけて創作したといいます。まさに死に物狂いで準備して、初演のためにアメリカに渡ったのです。だからこそ、その音楽はアメリカでも評価されたのだと思います。音楽としては、とても静謐なものです。武満さんは自然の音を抽出して、そのまま音楽にしています。武満さんの音楽は常に、頭でっかちではなく、雰囲気や空気感を大事にしています。論理が先に行かないもので、感じたものが音になっています。なので録音では、なかなか良さが分からないかもしれません。立体的な音響効果があり、オーケストラを二群に分けて空間を意識して書かれています。これはライブで聴かないと分からない音楽だと思います。

__西洋楽器と異なる二つの邦楽器は、どんな効果を生んでいるのでしょうか?

西洋音楽は、とても効率的にできています。西洋楽器は、人間の耳に聴こえる周波数20ヘルツから2万ヘルツの可聴な範囲で良く鳴るようにできています。しかし、非西洋の民俗楽器などは、可聴な周波数を大きく超えた音が鳴ると言われています。今回の二つの和楽器も、私たちの耳には聴こえないけど、はるかに豊かな音がぎっしりと鳴っているのです。だから、私たちは通常と異なる特別な感覚になれるのではないでしょうか。

__最後は、ベートーヴェンの交響曲第2番です。特徴は?

ベートーヴェンの交響曲第2番は「ニ長調」で、死と結びついた調性で書かれています。派手で元気いっぱいの曲だが、作曲時ベートーヴェンは難聴が進み、遺書を書く前でした。悲しく、苦しい時だから、音楽は躁状態になってしまっているのかも知れません。僕の性に合っている曲だと思います。この作品も、先日の「ラ・ヴァルス」と同じく青春の思い出が詰まった作品です。芸大2年生の時の試験曲でした。当時、シンフォニーなどを指揮できる機会が少なく、芸大の仲間を集めてTOMATOフィルハーモニー管(現在の横浜シンフォニエッタ)を結成して、ベートーヴェンの交響曲を第1番から順に第9番まで勉強して演奏していくプロジェクトを行っていました。お金もなくて練習会場を借りることができず、大学の廊下に譜面台を立てて練習することもありました。そして芸大フィルを指揮した試験では、TOMATOフィルと演奏していた経験も活きて、うまくいきました。怖そうに思っていた芸大フィルの団員さんに、珍しく褒めてもらった思い出が残っています。今回、この作品もぜひ読響と演奏したいと思い選びました。今回は16型の弦楽器で、管楽器は倍管にして演奏します。楽器配置もバルトークと武満作品と同じく左右に分けます。リハーサルでは、とても良い響きだと感じられました。全体のサウンドがミックスする印象です。音が交じり合って全体が鳴るのは、大変効果的だと思います。

__この演奏会のテーマは何でしょうか?

そうですね。今回のテーマは「ビート」ですね。ベートーヴェンがいなければ、今日のロックは生まれなかったでしょう。交響曲第2番は、とてもグルーヴ感のある曲です。バルトークは、全ての拍感が明確じゃないといけない。ビートがとても大事です。一方、武満さんの音楽は、一緒に「せーのっ」って合わせるものでなく、呼吸そのものがビートになります。この辺りの違いも感じていただけたら。もう一つの裏テーマは、3人の作曲家のルーツが近いのではということ。ベートーヴェンの出自について、その名前の由来からするとハンガリー系ではないかといわれています。そしてハンガリーは、アジアのルーツを持っているとされています。ぜひ会場で、僕と読響によるオリジナリティあふれるプログラムをお楽しみください。

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チケットは読響チケットセンター 0570-00-4390(10時~18時)と読響チケットWEB で好評発売中です。
当日券は、18時から販売します。学生券(2,000円/25歳以下/要学生証)の整理券も18時から配布します。皆様のご来場をお待ちしております。

第635回定期演奏会

2024年2月 9日〈金〉 サントリーホール

指揮=山田和樹
尺八=藤原道山
琵琶=友吉鶴心

バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 BB 114
武満徹:ノヴェンバー・ステップス
ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調 作品36