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第508回名曲シリーズ

2008年11月28日(金) 19:00開演

会場:サントリーホール

指揮:オスモ・ヴァンスカ
トロンボーン:クリスチャン・リンドバーグ

《ヴァンスカ・ベートーヴェン交響曲シリーズ IV》
◆アホ/交響曲第9番 ~トロンボーンと管弦楽のための
◆ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」

オスモ・ヴァンスカ (Osmo Vänskä)

 シューマンはベートーヴェンの交響曲第4番のことを「2人の北欧神話の巨人の間に挟まれたギリシャの乙女」と評した。
実はこの言葉通り、ギリシャの乙女風の第4番の演奏は20世紀の後半まで連綿と行われてきた。しかし1980年代、大指揮者カルロス・クライバーがその乙女像を一変させる。神聖な美の極致のように思われた音楽を、激情の渦に変えたのだ。
ヴァンスカによるベートーヴェンの交響曲演奏は、そうしたクライバー時代をさらに超えたものである。偶数番号の交響曲第4番に潜む “激情” をも包含した豊かさを志向する解釈に、今という時代の成熟があると表明しているようだ。
ヴァンスカのピアニッシモを聴いてほしい。音の綾、響きの作りを、あたかも顕微鏡を通して見せるかのように、細密に、うごめく内声の響きまでをも描き尽くし、透明かつ微細に表現する。逆にフォルテは響きそのものに激性を持たせ、時には逆巻く怒ど涛とうさながらに描き切るのだ。その響きの落差、デュナーミクの幅の驚異的な広さこそが、ヴァンスカのベートーヴェンをスリリングなものにし、振幅の広い今・21世紀を、音楽に語らせているのである。
1953年フィンランド生まれ。ヘルシンキ・フィルのクラリネット奏者として音楽活動を始め、後にシベリウス・アカデミーで名教授パヌラに師事した。
ブザンソン国際指揮者コンクールに優勝後、本格的な指揮活動を開始し、85年、当時、国際的には無名だったラハティ響の首席客演指揮者となり数々の名演奏を生み、88年、同響の音楽監督に就任。飛躍的に同楽団の技量を向上させ、世界的に注目されるようになる。  ラハティ響とはシベリウス作品を数多く録音し、現在に至るまでのベストCDも多い。2008年まで首席指揮者を務めるが、その後も継続的に指揮台に立つという。
93-96年アイスランド響、96-2002年BBCスコティッシュ響の首席指揮者を務め、2003年からミネソタ管の音楽監督に就任、ベートーヴェン交響曲全曲録音を進行中である。(Y.K.)
 
 

クリスチャン・リンドバーグ [トロンボーン] (Christian Lindberg)

 トロンボーンの名手といえば、皆さんは誰を思い出すだろうか?
 「まずグレン・ミラーかなぁ」
 「春風亭柳昇は痛快だったね」
 「作曲家のグロボカールでしょうか?」
 「いや、谷啓のほうが身近だよ」
 などと、時代への郷愁と共になつかしくその面影を思い浮かべるだろう。
 スライドを縮めたり伸ばしたり、見ているだけでも運動量の多そうなこの楽器の名手たち。さあ今の時代となると...と考えると、実はこのリンドバーグが世界最高という呼び声がもっぱらだ。
 “天才リンドバーグ” 
 “トロンボーンのパガニーニ”
 “スーパーエンターテイナー”
 彼を形容するキャッチフレーズは数々あり、その変幻自在なテクニックに表現意欲を刺激された、多くの作曲家が彼のために作品を書いている。今回取り上げる現代音楽の人気作曲家カレヴィ・アホの交響曲第9番は、まさにそうしたリンドバーグのための代表曲のひとつ。現代のトロンボーン芸術の頂点をその目と耳で確かめてみよう。
 1958年スウェーデン生まれ。17歳でトロンボーンを始め、2年後にストックホルム王立音大に入学、同時にストックホルム王立歌劇場管に入団した。しかし、ソロ奏者になるべく、まもなく英国王立音大に留学している。
 25歳でストックホルム・フィルと共演してデビュー。フランク・マルタン・コンペティションで優勝し、マリア・マルタン賞も併せて受賞した。
 92年、ヨーロッパ合同4社の放送局で制作したコンサートに同行してのドキュメンタリー番組がヨーロッパ各国で放送されて話題を呼び、94年にはイギリスBBCの「ザ・クラシカル・ミュージカル賞」を指揮者のアバドやチェロ奏者ヨーヨー・マとともに受賞した。これまで日本にもたびたび訪れ、主要なオーケストラと共演している。
 ベルリン・フィル、シカゴ響、BBC響など、世界有数のオーケストラと舞台に立ち、華やかな名演奏を聴かせている。
 なおリンドバーグには、生地スウェーデン語での呼び名リンドベルイという表記もある。(Y.K.)

 

アホ 交響曲第9番 ~トロンボーンと管弦楽のための

作 曲:1994年
初 演:1994年9月2日、ヘルシンキ
 カレヴィ・アホ(1949-)は、現代フィンランドを代表する作曲家です。シベリウス音楽アカデミーでラウタヴァーラに師事し、在学中に発表した交響曲第1番は高い評価を受けました。アホはこれまでに、14曲の交響曲を発表していますが、その特徴のひとつに、交響曲でありながらソロ楽器をもつ協奏曲的な作品が多いことがあげられます。
 例えば第1番と第3番はヴァイオリン、第8番はオルガン、第10番は打楽器群、そして今回演奏される第9番はトロンボーンがフィーチャーされています。また、この第9番は当初〈シンフォニア・コンチェルタンテ第2番〉と呼ばれていました(交響曲第3番が〈シンフォニア・コンチェルタンテ第1番〉)。これは、いわゆる純粋な交響曲でも協奏曲でもない、その中間的なジャンルに位置することを示しているといっていいでしょう。
 このように、アホの交響曲が協奏曲に近いスタイルを示しているのに対して、彼の協奏曲(ヴァイオリン、チェロ、ピアノがあります)が非常に交響的な性格を持っていること
 もまた、特筆すべきでしょう。これらの協奏曲では、オーケストラが単なる伴奏以上の役割を果たしているのです。ソロと管弦楽、あるいはソロ楽器群といった楽器の扱いにおいて、アホは独自のスタイルを展開しているといえます。
 さて、交響曲第9番は1994年年9月2日、ヘルシンキ音楽祭でオスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団によって初演されました。初演のソリストはクリスチャン・リンドバーグ。リンドバーグは天才的なトロンボーン奏者として知られ、彼の初演によるトロンボーン作品は200曲を越えるといわれています。
 曲は3つの楽章からできていますが、その大きな特徴は、現在、過去、未来という3つの時代を重層的に行き来していることです。もちろん中心的な役割を果たしているのは現代的なスタイルですが、そこに過去の様式が顔を現します。例えば第1楽章では、現代的な対位法の音楽で始まりながら、チェンバロが登場してバロック音楽の様相を帯び、トロンボーンがサックバットというバロック・アルト・トロンボーンに持ち替えられます。歴史の終わりを示唆するかのような静かな第2楽章を経て、トロンボーンの超絶技巧のカデンツァを伴う終楽章は生命への大らかな讃歌のように響き渡ります。

第1楽章 アンダンテ~ヴィヴァーチェ~アンダンテ~プレスト
第2楽章 アダージョ
第3楽章 プレスト
 

ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調 作品68 〈田園〉 

作 曲:1808年
初 演:1808年12月22日、ウィーン
 ベートーヴェン(1770-1827)の交響曲第6番〈田園〉は、第5番〈運命〉とほぼ同じ時期に引き続いて完成しました。ところが、この2つの交響曲があまりにも違う雰囲気をもっているために、しばしば、ベートーヴェンが、こんなにも性格の違う2つの作品を同時期に書ける天才だということの証明のようにいわれてきました。けれども、音楽自体をみれば、この2つの作品が、正反対どころかたいへんよく似た、ある意味で兄弟のような作品であることがわかります。
 たとえば、〈運命〉では楽器編成を大きくしたことが大きな特徴ですが、これは〈田園〉にも引き継がれていますし、第3楽章と第4楽章を続けて演奏するという〈運命〉の試みは、〈田園〉では第3楽章から第5楽章を続けて演奏するというかたちになっています。さらに、第1楽章のテーマは、有名な「タタタターン」という〈運命〉の動機と同じリズム・パターンをもっているのです。
 もちろん、〈運命〉にみられる精神的葛藤や情熱に対して、自然を題材にとった〈田園〉はより穏やかな性格をもっていることは確かです。ベートーヴェン自身は、この曲を「描写ではなく、田舎の生活が人々の心によびおこす感情を表現した」といっていますが、それにしても、この曲が自然のすがたを描写した、ある種の標題音楽となっていることは否定できません。曲中では、小川の静かな流れや、カッコウやウグイスなどの鳥の鳴き声、荒々しい嵐の様子などが、音によって細かく描かれていきます。さらに、すべての楽章にタイトルがつけられていて、それらはつなげてみれば、まるで一編の詩か小説を思わせます。けれども、たとえ標題がなくても、この曲は、音楽自体がひとつのドラマを作り上げているような要素をもっています。それは、後のロマン派時代の交響詩や交響曲に大きな影響を与えたもので、ある意味で、この交響曲第6番〈田園〉は、ロマン主義音楽の先駆け的な作品であるということができるでしょう。

第1楽章 「田舎に到着した時の愉快な気分」 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
第2楽章 「小川のほとりの情景」 アンダンテ・モルト・モッソ
第3楽章 「田舎の人々の楽しい集い」 アレグロ
第4楽章 「雷雨と嵐」 アレグロ
第5楽章 「牧歌。嵐の後の喜びと感謝の気持ち」 アレグレット

(むろた なおこ・音楽学)

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